土壁(泥・藁スサ・竹小舞)は調湿・防火・蓄熱に優れた貴重な下地。上手に扱えば、現代の快適さと和の質感を両立できます。ここでは**「残す/補修」「上に重ねる」「撤去して作り直す」**の3方針を比較し、費用相場・工期・注意点まで実務的にまとめます。前向きにいきましょう、土壁は“育て直す”ほど良くなります。
方針の選び方(早見表)
| 方針 | 仕上がり | 長所 | 注意点 | 目安費用 |
|---|---|---|---|---|
| ① 残して補修(左官) | 和モダン(漆喰・珪藻土) | 調湿活かす/質感◎ | 下地診断が命/クラック管理 | 4,000〜12,000円/㎡ |
| ② 上貼り(ボード化→クロス/塗装) | 大壁・フラット | 早い/配線更新しやすい | 調湿は低下/厚み増 | 3,500〜10,000円/㎡ |
| ③ 撤去・やり替え(断熱/耐震) | フル更新 | 性能大幅UP | 解体手間/粉じん多 | 10,000〜25,000円/㎡ |
※現場条件・面積・仕上材で変動。小規模は割高になりがち。
①「残して補修」左官仕上げの進め方
向くケース:土壁の“ふかつき”が小さい/面内は概ね健全/和の質感を活かしたい
- 下地診断
- 指で押してボソボソ崩れる→ドロ止めシーラー
- ひび→Vカット/寒冷紗(ファイバーメッシュ)伏せ込み
- 竹小舞露出→ラス網で面補強
- 下地調整
- 荒壁〜中塗り相当を半既調合下地材で平滑化
- 隅・入隅はメッシュテープでクラック抑制
- 仕上げ
- 漆喰:白くシャープ、耐汚染はアク止め必須
- 珪藻土:マットで調湿◎(樹脂系は掃除しやすい)
- 中塗り仕上げ:土色の素朴感を残す方法も
相場:下地〜仕上げ込み 4,000〜12,000円/㎡(下地痛みが強いと上振れ)
工期:6畳1室で2〜4日(乾燥待ち含む)
②「上貼り」ボード化→クロス/塗装
向くケース:配線増設したい/フラットな壁にしたい/工期短縮
- 工法:木胴縁で逃げを取り石膏ボードt12.5をビス留め→パテ→クロス or 水性塗装
- メリット:割れの再発を抑えやすい/コンセント・LAN増設が容易
- デメリット:厚み増(5〜25mm)→見切り処理必須/調湿低下
相場:
- ボード+クロス:3,500〜7,000円/㎡
- ボード+塗装:4,500〜9,000円/㎡
工期:6畳1室で1〜2日
ひどい“ふかつき”には直貼りNG。必ず胴縁で健全下地に荷重を逃がします。
③「撤去・やり替え」断熱・耐震まで一気に
向くケース:壁の中が湿っている/シロアリ懸念/冬寒い/耐震も同時に見直したい
- 土・藁・竹小舞の解体→処分
- 構造用合板+n釘で面剛性UP、必要に応じて耐力壁計画
- 断熱材(グラスウール高性能/セルロース/フェノール)充填+防湿気密
- 室内側は石膏ボード→クロス/塗装/漆喰
相場目安:
- 解体・処分:2,000〜5,000円/㎡
- 耐震(合板・釘・金物):5,000〜12,000円/㎡
- 断熱(材+施工):4,000〜10,000円/㎡
- 仕上げ:3,500〜9,000円/㎡
→ トータル 10,000〜25,000円/㎡ 程度
工期:1室で3〜6日(規模により増減)
仕上げ材の選び方
- 漆喰:白・光の反射が美しい。アク止めシーラーで黄変対策。
- 珪藻土:調湿と温かい質感。生活汚れ対策に撥水タイプも検討。
- 和紙貼り:柔らかい陰影。目透かしや見切りで収まり良く。
- クロス:コスパ重視。和紙調・布目で和モダン寄せ。
- 塗装:水性マット(F☆☆☆☆)。下地パテの段差隠蔽が仕上げを左右。
よくある不具合と対策
- 粉落ち(チョーキング):ドロ止めシーラー→下地再生
- クラック再発:寒冷紗全面 or 目地テープ+弾性下塗り
- カビ:換気計画/北側は防カビ下塗り+通気見切り
- 見切りの段差:アルミJ・木見切りで意匠処理
- コンセント後付け:上貼り工法なら先行配線で解決
費用を抑えるコツ
- “下地の健全度”を先に診断(開口検査写真をもらう)
- 一部アクセント左官+他面はクロスのミックス
- 見切り位置で面積を区切る(全面フラットより安定)
- 同時工事(床・建具調整)をまとめて養生・搬入コストを圧縮
- 相見積は同一条件(㎡数・仕上・下地補修範囲を固定)
見積りチェックリスト(コピペOK)
- 施工範囲(壁何面・天井有無)が明記
- 下地補修の単価/㎡ と想定上限が記載
- 仕上げ材のメーカー・品番・色が確定
- 見切り材・巾木・枠の納まりが図示
- 解体・運搬・処分費が独立計上
- 養生・清掃の範囲と近隣配慮
- 施工保証(1年目安)とアフター連絡先
DIYは可能?プロ依頼の線引き
- DIY向き:ドロ止めシーラー塗布/小クラックのパテ/簡易珪藻土塗り
- プロ推奨:寒冷紗全面、角の通り出し、広面積の均し、電気・断熱・耐震を伴う改修
仕上がりの差は下地のフラット出しで決まります。広い面は左官に一日の長。
工期目安
- 左官補修+漆喰:6畳1室 2〜4日
- ボード上貼り+クロス:1〜2日
- 撤去+断熱+仕上:3〜6日
※乾燥養生・家具移動で+α見込み
断熱・耐震も一緒に考える
- 冬の結露・寒さが課題なら、内窓や床・天井の断熱と併用で体感UP。
- 既存土壁を活かしつつ、部分的に構造用合板で壁倍率を上げる設計も有効(要専門家)。
まとめ
- 和の質感を活かすなら左官補修、利便・配線なら上貼り、性能更新なら撤去やり替え。
- 成功の鍵は下地診断→収まり設計→同条件で相見積。
- 土壁は手をかけただけ応えてくれます。あなたの住まいに合う“育て方”を選べば、空気と居心地は見違えます。

