◆ はじめに:建築学とは「人と空間と社会をつなぐ学問」
建築学とは、単に「建物をつくるための技術」ではありません。
人間の暮らし・文化・環境・技術を融合させ、空間を創造する総合科学です。
つまり建築学は、
「理系の工学」+「文系の社会学・芸術」
の両側面を持つ、非常に幅広い学問です。
この記事では、大学で学ぶ「建築学概論」の内容を中心に、
建築の基礎概念・学ぶ領域・キャリアとの関係をわかりやすく解説します。
◆ 建築とは何か?— 建築の3要素「ヴィトルウィウスの三原則」
古代ローマの建築家ヴィトルウィウスは、建築に必要な3つの要素として
**「強さ(Firmitas)」「用(Utilitas)」「美(Venustas)」**を掲げました。
現代の建築学でも、この三原則は基本理念として受け継がれています。
| 要素 | 意味 | 現代建築での例 |
|---|---|---|
| 強さ | 構造的に安全で壊れない | 耐震設計・構造計算 |
| 用 | 機能的で使いやすい | 動線設計・ユニバーサルデザイン |
| 美 | 美しく快適である | 建築デザイン・景観設計 |
建築学概論では、これら3つの要素をバランスよく実現することの重要性を学びます。
◆ 建築学の主要分野(5つの領域)
建築学は多岐にわたる分野の集合体です。
大学の建築学科では、主に次の5つの領域を中心に学びます。
① 建築設計(Architectural Design)
建物の外観・間取り・空間構成をデザインする分野。
建築の「顔」をつくる創造的な領域であり、模型制作やCAD、BIMなどのスキルを学びます。
② 建築構造(Structural Engineering)
建物を安全に支えるための構造計画を扱う分野。
地震・風・荷重などに耐えるための「構造力学」「材料力学」「構造解析」を学びます。
③ 建築環境・設備(Environmental Engineering)
快適な室内環境を維持するための空調・照明・給排水・音環境などを設計する分野。
近年は「省エネ建築」「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)」など環境設計が重視されています。
④ 建築計画・都市計画(Urban and Regional Planning)
建築物だけでなく、まちづくり・都市の構造・公共空間を研究する分野。
住みやすい社会のために、人と建物の関係を広く考えます。
⑤ 建築史・建築理論(History & Theory)
古代から現代までの建築史、建築家の思想、文化的背景を学びます。
美術史・哲学・社会学と関連が深く、「なぜ人は建築をつくるのか」という根本を探ります。
◆ 建築学概論で学ぶテーマ例(大学講義内容)
実際の「建築学概論」では、以下のようなテーマを学びます。
- 建築の歴史と社会的役割
- 建築基準法・都市計画法の基礎
- 構造・環境・設備の基本概念
- 建築設計プロセス(企画→設計→施工→管理)
- サステナブル建築・環境共生型デザイン
- 有名建築家の作品と思想(ル・コルビュジエ、安藤忠雄など)
この講義は、建築学の全体像を把握する入門科目として、1年次前期に開講されることが多いです。
◆ 建築を学ぶ上で必要なスキル・適性
建築学では、理系の知識だけでなく、芸術的・社会的な感性も求められます。
| 分野 | 必要なスキル |
|---|---|
| 数学・物理 | 構造設計・力学計算に必要 |
| 美術・デザイン感覚 | 建築の形・空間構成を考えるため |
| コミュニケーション能力 | クライアント・施工者との協働に不可欠 |
| 論理的思考 | 設計意図を説明・文章化する能力 |
| デジタルスキル | CAD、BIM、3DCGなどのツール操作能力 |
特に最近は「BIM(Building Information Modeling)」など、デジタル技術を使った設計が主流になっています。
◆ 建築学を学べる主な大学(例)
🔹 国公立大学
- 東京大学 工学部 建築学科
- 京都大学 工学部 建築学科
- 東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系
- 名古屋大学 工学部 建築学科
- 九州大学 芸術工学部 環境設計学科
🔹 私立大学
- 早稲田大学 創造理工学部 建築学科
- 東京理科大学 理工学部 建築学科
- 芝浦工業大学 建築学部
- 日本大学 理工学部 建築学科
- 武蔵野美術大学 造形学部 建築学科(デザイン志向)
大学によって、構造・デザイン・都市計画などの得意分野が異なります。
入学前に「自分がどの建築を学びたいか」を明確にしておくと良いでしょう。
◆ 建築学を学んだあとの進路・キャリア
建築学科を卒業した後の進路は多様です。
| 分野 | 主な就職先・職種 |
|---|---|
| 設計・デザイン系 | 建築設計事務所、デザイン事務所、インテリア企業 |
| 施工・管理系 | ゼネコン、ハウスメーカー、工務店 |
| 公共・行政系 | 官公庁、自治体の建築技師、都市計画担当 |
| 研究・教育系 | 大学・研究機関、建築コンサルタント |
| メーカー・不動産系 | 建材メーカー、デベロッパー、住宅営業 |
また、卒業後に建築士(一級・二級・木造)やインテリアコーディネーターなどの資格を取得する人も多いです。
◆ 建築学の未来:サステナブル社会への挑戦
21世紀の建築学は、「環境」「防災」「地域共生」という新たな課題に直面しています。
- 省エネルギー建築・ZEB/ZEH
- 再生可能エネルギーの活用
- 木造建築・CLTの普及
- 災害に強いまちづくり(レジリエンス建築)
- AI・IoTを活用したスマートビル設計
建築学概論では、こうした未来の建築の方向性についても学び、
「人と地球にやさしい建築とは何か?」を考える力を養います。
◆ まとめ:建築学概論は「建築という学問の地図」
- 建築学とは「技術 × 芸術 × 社会」の融合分野
- 建築の三原則「強さ・用・美」が基本理念
- 設計・構造・環境・都市・歴史の5分野を体系的に学ぶ
- 建築士・都市計画・デザインなど多様なキャリアにつながる
- 未来の建築は「環境・デジタル・地域共生」がキーワード
「建築学概論」は、これから建築を学ぶ学生にとっての出発点です。
“空間をつくる”という行為の意味を理解し、建築の奥深さを体験する最初の一歩として、
ぜひこの学問の世界に触れてみてください。

